【注意】
まず先に注意点が2つあります。
一つ目は、血迷ってもサービスデザインに免疫がない組織では大胆に行動するのは避けて下さい。 クライアントや社内の誰かに営業時間を使って何をしているのか、と質問攻めにされることもあるからです。従って、このような場合は水面下で巧妙に動くことが鍵となります。
二つ目は、これから紹介する実例と方法はあなた方の課題を解決する 魔法のパッケージでないことを、念頭に置いてください。 新しいサービスに取り組む時に肝心な最初の勢いをつけることが目的で、応用されることを前提に書いています。 会議室で議論だけ進んで、現状が変わらないような状況のように、うまく前に進めない時に参考にしていただければと思います。
今回紹介するお話は、私のチームが北米最大の自転車シェアプログラム内の移動式自転車修理サービスの開発に携わった時の話です。
当時、クライアントは営業する上で指定されている自転車の稼働率の最低ラインを下回っていたので、 この数字をあげるために雇用者を増やしてほしいという課題を私たちは託されました。 修理工たちの作業スピードは変わらないことを前提として議論は交わされ、案のいくつかは検証されたのですが成功せず、提案されるアイデアもモラルが低いものばかりでした。移動式自転車修理というアイディアは私たちが入る前に既に議論されていましたが、 気がついたらそっちのけにされていました。 試しに自転車を道端から修理屋に移動させるトラックの運転手に修理道具をもたせてみたら、 彼ら自身がその場で簡単な修理を行えることが分かりました。
このような修理により、おそらく20-25台の修理屋行きの件数を防ぐことができます。
この時点で私たちは自転車修理店舗では通常1日4~8台の修理が行われていること、
トラックは1日あたり2回収集して22台ずつ積まれていること、 2台のトラックが2~3のシフトに渡って回っていること、 ときには、週7でトラックが運行しているという情報を得ていました。 つまり、毎日約176台もの自転車が倉庫に送られ置かれている状態が浮き彫りになったのです。
逆算すると、仮に修理工1人にあたり1日7台の修理を行えるとして、 この仕事量を当日終わらせるには25人の修理工が必要なことが分かります。 しかし実際に雇用されていた修理工の数はというとたったの16人でした…。
他のトラックの運転手や元運転手にもインタビューを行ったところ、 ダウンタウンや池の近くのような場所にバンでいくと3つの地区を超えるのに45分かかるのに対して同じルートを利用しても自転車では5分しかかからないことが判明しました。 その後、クライアントに監視されていない状態で私たちの中の何人かで移動式自転車修理サービスのサービスジャーニーを描きました。実はこの作業工程を修理工たちは楽しみにしてくれていて、快く参加してくれました。
私は、クライアントであるマネージメント層がこの移動式自転車修理のアイディアを実現するためのステップを視覚的に伝えるノウハウと我々が発見した上記の数字を持っていないことを知っていました。そして、この二つの要素が成功への鍵だと考えたのです。
次に工業デザインのバックグラウンドを持つ修理工に依頼して、専門的な機能等も考慮しつつストーリーボードをかっこよく描いてもらいました。 私の拙いスケッチをうまく翻訳してもらったのです。
また、ビジネスモデルキャンバス(以下、BCM)を埋めるために昼休みを使って様々な部署の人たちに相談し必要且つ正しい情報を集めました。
このBCMに関しては決して緻密である必要はなく、
「なぜ、どのように、何をどれくらいまでするべきか」
を発表することが重要でした。
ある日、何名かの修理工のリーダーたちと我々は一緒になって道具や部品を引っ張って野原で自転車修理をするところを想像して嘲笑しました。 そして同時にイメージが一気に膨らみました。 道具や部品がすぐに重くなり、四つん這いで自転車修理をすることは身体的な負担がかかります。修理工たちに移動式自転車修理の案をなぜ支持しているのかという理由を聞いているうちに、あることに気づきました。実のところ、彼らはただ倉庫から脱出して修理の現場まで湖の近くを通り太陽の下で仕事をするという発想からこのアイディアを実現させたいと考えていたのです。私はこの感想をまとめてパッケージ化し、キャッチコピーを作り、それを人々に見せて反応を伺いました。
これに関して、とても前向きな反応が返ってきました。
そこで私はこの案件を担当するマネージャーにこのパッケージを解決策として渡しました。その際に、彼に「会社の営業時間を無駄にしてくれた」とぼやかれたのを覚えています。
一ヶ月後、クライアントから移動式自転車修理工を実現させるが導入を他に任せると伝えられました。きっと、私は誰かを怒らせたのだと思います。驚くべきことではないですが。その間に、私はそのプロジェクトに新しく任命されたチームのエキスペリエンス・マップやインテラクティブなプロトタイプの作成担当者を指導する機会を与えられました。
現在(2017年時点)は2人の修理工が自転車移動し修理現場へ向かい、1日に平均20台を修理しています。新たな変化をとても気に入っている様子も伺えました。1日に約40台もの修理を二人の修理工により行えるようになった結果、トラック2台分の修理台数を1日で担えるようになりました。二人の修理工のアウトプットを3倍に増やした上に、1日2回のトラックの往復を省き、更に修理店舗に運搬される自転車を1日あたり136台に減らすことができました。もちろん、新しい雇用はしていません。
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