最後に、株式会社リクルートテクノロジーズの岩佐氏を司会に迎え、これまでの登壇者と共に「サービスデザインの裏と表」というテーマでパネルディスカッションが行われた。
岩佐氏曰く、「日本でのサービスデザイン、ぶっちゃけどうなの?」ということで、マネタイズのポイントやコミットメントのありかたの変化、デザインから事業性・収益性をへの変化についての話となった。
「圧力がありながらも、信念で」
それについてコクヨの竹本氏は、ヒカリエの例ではやはり一般的な企業・大学などを対象にした場合にマネタイズの面で難しさがあったとのこと。
「渋谷らしさ」に特化した上で、事業や組織をコンサルティングしマネタイズのケイパビリティを担保していくといったファシリテーションをコクヨ側で行っていったようだ。
さらにコクヨ社内でも社長合意の事業として今までの慣例外のやり方でプロジェクトを進めていく必要があり、議論や圧力が発生しながらも信念で遂行したとのことだ。
「ビジネス重視であれば、IDEO以外に適任」
またIDEOのトイレプロジェクトのマネタイズについて田中氏は、この事業はノンプロフィットであるとした上で、プロジェクトには期間があってゴールがあり、サスティナビリティは重要だが事業主ではないのでずっと付き合うことはできないという、というIDEOの姿勢を語った。新領域提案については顧客がつくかどうかの判断が重要であり社内にそれを判断する役職者もいるが、結果は後にならないと分からないので難しいとのこと。
それに対して岩佐氏より、プロジェクトゴールのバランス感は、売り上げに対する効果なのか、顧客の満足なのか、という質問が出た。
田中氏曰く、アイデアを出しながら検討をしていくが出してみないと分からない部分があり、良いアイデアだと思っても事業性が担保しきれない場合もあるとのこと。
デザイナーとしてはプロトタイプを作り体感することが重視しており、その体験が人々にとって価値があるかどうかが重要との意見。ビジネス重視であれば、IDEO以外に適任がいるのでは、との見解だ。
「基本的に儲かるか儲からないか」
一方、山口氏はインサイトフォースの事業について、基本的に儲かるか儲からないかのビジネスコンサルタントであるとし、デザイン主導のIDEOとは真逆でマネタイズありきであると述べた。
その上で、既存の収益モデルを危機にさらすような施策は十分に顧客とコミュニケーションを行うことが重要とし、数字そのものには意味が無いことを説く必要があるとした。
チャンスとリスク、必要なリカバリー策まで提案した上で、新しいことを行うために古いものをどう遠ざけるかが問題だとし、イノベーションを行うことは大変リスキーであるとの意見だ。
「成功体験が大きいほど変化は難しい」
さらに、クライアント企業にはそれぞれ「人柄」があり、何かを変えていく際にはその組織のキャラクターについても苦労があるようだ。成功体験が大きい企業、技術主導で勝ってきた企業ほど組織変革、意識改革といった変化が難しくなり、与件整理から関わる必要があるとのこと。
さらに、日本企業の弱点として戦略的なブランド牽引力をあげ、ブランド力が強いと思っていた企業が実は技術力ベースであると指摘した。既存の技術などの慣性力から脱し、理想的な顧客体験を議論することが大切だそうだ。
「組織(B)の顧客は結局は個人(C)」
片や、創業から一貫しているNOOMに苦労はないのかというと、レビューや口コミへの対応を地道に行うなどの地道な努力はあったようだ。
その上で、対個人から対組織へのプロジェクトのスケールについては、特に古い保守的な業界へのアプローチは難しかったとのこと。しかし、アメリカには大企業とのマッチングをサービスしてくれる団体があり、そのようなシステムを利用してアプローチしていったそうだ。
この図式は「既得権益への立ち向かい」というイノベーションにおいて、日本国内では特に難しそうに思えるが、顧客個人(C)に受け入れられているファクトを持って、各組織(B)に対して時間をかけてアプローチをしたそうだ。Bの顧客は結局はC、ということである。
またマネタイズの仕組みについても安定志向ではなく常に事業のスケーリングが企業としてのミッションであるとのこと。企業規模が小さいことが意思の統一に有効に働いているようだ。
「多くのアイデアが出る事が大切」
IDEOの「OPEN IDEO」という試みついて、岩佐氏より「エノログ的なのか?」との問いが上がった。リクルート社内でも類似のサービスを導入しているが、しっかり成果が出るのかが疑問だそうだ。
アイデアを公募するより社内で考えた方が良いのではないか、という問いに対して田中氏はこう反証した。
良いアイデアは大したことないことが多い。ふと思いつくものが案外良いアイデアだったりもする。そして視野が広がる。社内などで行うグループワークの拡大版がOPEN IDEOであり、アイデアの良い悪いでは無く、多くのアイデアが出る事が大切とのことだ。
グループワークは社内のみならずクライアントと共に行う場合においては、クライアントの思い込みとユーザー視点が違うことを、クライアントと一緒に体験することできて大切だそうだ。
「意志決定者が直に直接触れることが大切」
その点については山口氏も同意見だ。直接体験すること、客観的な証拠はとても重要であり、ユーザーの生の声の力は大きい。各企業の意志決定者がそれらに直に直接触れることが大切と述べた。
(コンサルティング業界自体もその点においてはブラックボックスである、との補足も)
イノベーションを行う際、企業内で横串的な部署が設立されることも多いが、それだけでは不十分であり、組織体として立ち向かう必要があるとした上で、その組織キーマンの視界合わせなど、半分は組織そのものの問題であるとした。
諸問題に対して、社内に解決策がない場合は少なく、そもそも合意形成ができてない事が問題であることの割合が非常に多いとの指摘だ。特にワンマンキーマンが居なくなった後にそのような傾向が顕著化するようだ。
つまるところ、組織内変革に対しては必殺技や魔法の杖的な施策は無く、意志決定者そのものの認識が変わっていくことが重要と締めくくった。
「日本は割とスタートアップが元気」
最後に、現在の日本国内における事業のスタートアップについて、宜保氏は特に海外と変わりなく元気だと述べた。特にNOOMの様な企業は規模の小ささが幸いしてハンドリングも良いのだそうだ。そのあたりはアメリカのカルチャーの良い影響とも言えよう。
以下、会場からの質疑応答。
mixiの方より、プロジェクトにおいて思い込みがあると正解しか拾わなくなるのでは、という質問が出た。組織内の物事に対してポジティブな解釈しかしない様な場合などだ。
これに対し山口氏は、何の不安がそのような場(正解しか拾わない)を作っているのかを突き止め、それらを地道に取り除く努力をするしかないと述べた。
またリクルートの方より、サービスデザインにおいては解決方1つではなく
、また新しいわけでもない。プロジェクトを受ける受けないの判断はどこで行うのかと、IDEOに対して質問が出た。
それについて田中氏は、費用と期間が、顧客の求めているものと割に合わない場合や顧客がIDEO側のインサイトに興味を示さない場合などは仕事は受けないと答えた。逆に、問題が複雑(死や宗教…etc)であればあるほど、デザインで解決できる余地があると意気込みも伝えてくれた。
一方山口氏は、ケーパビリティやリソースを鑑みて顧客に競合他社を紹介することもあるとのこと。その上で、面白そうで挑戦しがいのある仕事は進んでやるそうだ。
総じて、提供価値がなんであるかが明確になっていることが重要である。
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