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【基調講演/デザイナーとノン・デザイナーの境界に橋をかける】 Jamin Hegeman(Adaptive Path)
本イベントの基調講演として、サービスデザイン・ネットワークの役員も務める米Adaptive Path社のHegeman氏に登壇いただいた。同社は、米大手金融会社Capital Oneによって近年買収された代表的なサービスデザインエージェンシーであり、Hegeman氏はそこでサービスデザインの活動を主導する立場にある。自身の現場での経験から、デザイナーとノン・デザイナーが協働し、共創するためには何が必要か、そのあり方について提言した。
多領域が関わるプロジェクトにおいて求められること
現在のAdaptive Path社はすべてCapital Oneに関する仕事であり、それ故に多くの人と協働する機会が増え、JOURNEY、ECOSYSTEM、BLUEPRINT…といったサービスデザインに関連する用語が社内に浸透し始めたとのこと。つまりそれは、デザイナーとデザイナー以外の人(ノン・デザイナー)もそういったツールを使う機会が増えてきたということを示している。実際サービス実現のためには、そういったスタッフを含め多くの人の共通の理解が必要であり、Hegeman氏は、サービスデザインはサービスインタラクションを通じて顧客体験とスタッフ・事業側での体験全体を対象とすることを説明した上で、顧客-スタッフ-ビジネス(事業主)の三方の共感を得ることが必要と解説した。そのような背景では、もはや我々はデザイナーとノン・デザイナーは協働せざるを得ない状況にあると言う。そこでHegeman氏は、デザイナーとノン・デザイナー間のそれぞれの状況や立場によるギャップに着目した上でそれらを大・中・小の3段階に分け、それぞれを橋渡しをするための観点について論じた。
デザイナーとノン・デザイナー間の小さなギャップに必要なのは共通言語化によるプロセスの共有
ギャップが小さい場合においては「プロセス」「ツール」「共通言語」という観点が重要であると言う。Hegeman氏は、実際の事例として神経外科診療所のサービスデザインのプロジェクトについて紹介した。その事例では、デザイナー以外に看護士やエンジニア、副社長といった多数の役職の方が参加し、さらに実際の患者も巻き込んでソリューション開発を行ったとのことであった。そこでは、ボードゲームのようなものを使ってゲーム性を取り入れたり、多数の参加者で作成したジャーニーマップを囲んでWSを行うなど、協働するためのツールや環境を整備することで、立場の違う参加者がプロセスを共有しやすい仕組みを作ったことをHegeman氏は解説した。
中程度のギャップがある場合には、明確な役割分担による長期のコミュニケーション支援が必要
続いて、デザイナーとノン・デザイナーの間に中程度のギャップがある場合について、Hegeman氏はプロセスの可視化が重要であると論じた。そのためにはプロジェクトでの各プロセスにおけるそれぞれの役割を明確に定義する必要がある。そしてそれは、長期的なコミュニケーションの支援につながると言える。またこれまでの実際の手法として、協働する際かつてはデザイナーがノン・デザイナーであるステークホルダー側に参加していたが、その場合与えうるインパクトは短期的であり、デザイナーが去れば結局はステークホルダー側は元の慣れたやり方に戻ってしまっていた。その場合は、そうではなくてステークホルダー側からデザイナー側に参加してもらう方が有効であるとHegeman氏は述べた。
大きなギャップがある場合には、サービスの質を担保する組織構造が必要
最後に、デザイナーとノン・デザイナー間に大きなギャップがある場合に必要な観点について、Hegeman氏は解説した。まず良く言われることとして、ビジネスの現場においては「企業はリスを追いかけるのが好き」だという。これは、プロジェクト遂行中に目の前に新しいことが現れると、皆がそちらに気をとられてしまう、ということを示唆している。特に多領域に渡るサービスデザインにおいては、こういったことにならぬよう各専門家の意識合わせが必要である。またHegeman氏は、現状ではサービス体験に関する権限や責任の所在が不明確で、結局は社長に行きがちであることに着目した。
サービスエクスペリエンスオフィサー(SXO)の配置
ここでHegeman氏は、先の問題から、サービス体験全体を統括してサービスの質を担保する役割として、サービスエクスペリエンスオフィサー(SXO)の配置を提案した。同時に、サービスデザイナーが束ねるサービスエクスペリエンス部門の設置も提言した。今後はデザイナーとノン・デザイナーのハイブリッドチームとしてもっと密接な関係を作っていくことが必要であるという。そのために最も重要なのは、サービスデザインが組織の機能の一部となるような組織自体の変革であると語り、Hegeman氏は講演を締めくくった。
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